瀬名家

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***  二泊というのはあっという間だった。可愛くて優しいモフモフたちと遊んでいるとすぐに時間が経つ。  十六時前くらいに出よう。夕べ瀬名さんとそう話していた。  十六時が来るのは本当にはやくて、賄賂として持ってきたおやつを置き土産にして腰を上げた。それがさっき。 「……ダメだな。遥希、ちょっとここで待ってろ。お前が玄関出たら多分こいつらまで外出ちまう」 「キキ……ココ……二人とも元気でいるんだぞ。また会いに来るからな」 「よせ。お前がしんみりするとこいつら完璧に読み取って離れねえ」  玄関まで来たのはいいがそこから外に出られずにいる。足元にはキキとココ。俺たちを見上げながらずっとついてくる。  廊下でストンとしゃがみこんで二匹の頭をもふもふ撫でた。  二匹分のニャアニャアが絶え間なく聞こえてくる。二匹とも頭と体をやたらと擦り付けてくる。  離れがたい。二匹まとめてギュウってしたい。叶うならば本当に連れて帰りたい。  しかしそういう訳にもいかないから、おどかさないように俺の横から瀬名さんがそっと腕を伸ばした。  やんわりと抱き上げられたココの体。キキも片手でポンポンされるが、瀬名さんの呼び声もシカトして俺にニャアニャア言うばかり。 「……こんな懐くか。お前ら俺の見送りのときはもっと淡泊だろ」  瀬名さんもとうとう溜め息だ。ひとまずはココだけリビングに連れて行った。  残された俺はキキと見つめ合う。綺麗なハチワレと前足の靴下模様がとても可愛い黒白の猫。にゃあ、っとまた声を上げたから、両腕でもふっと抱っこしてその場でゆっくり立ち上がった。  肩にヒシッと前足が乗っかる。首元には小さな頭がやわらかくくっついた。 「ありがとな。必ずまた会いに来るよ」  キキの黒い背中をポンポンしながら、俺たちも部屋の方に行った。すると中からガチャリとドアが開き瀬名さんが一人で出てくる。ガラスの嵌まったドアの向こうからはココがこっちをちょこんと見ていた。 「悪いな」 「いえいえ」 「ほら、お前もだキキ。別れは十分惜しんだだろ」  キキのやわらかい体を丁重に受け渡す。瀬名さんが両腕を出して抱き止めようとしたその瞬間、それまでおとなしくしていたキキは急にバッと飛び出した。 「あっ、キキ……」  ザザっとダッシュで逃げていったのは玄関の方。  すぐさま瀬名さんが連れ戻しに行くも、トトトッと素早く三和土に下りて扉の前を陣取った。 「キキがこんなに反抗するとは……」  困ったように近くから見下ろす瀬名さんをキキはじっと見上げていた。ドアの前にビシッとお座りをして、何事かを訴えかけるようにニャッと強めの短い鳴き声。  そんなキキの前で腰を屈め、瀬名さんは静かに呼びかけた。 「遥希を帰さねえつもりか?」  もう一回ニャッと鳴き声が上がる。黒い尻尾がぶんっと揺れた。 「駄々こねたって仕方ねえだろ。遥希には帰る場所がある」  ニャッ。 「二泊もして遊んでくれたんだぞ。困らせてねえでちゃんとお別れしろ」  ニャッ。 「いつからそんなお行儀の悪い猫になった」  ニャッ。 「お前がそこを動かなくても俺は遥希を連れて帰るからな」  ギロッと睨みながらニャ゛っと鳴いた。すげえな。ちゃんと会話できてる。  飼い猫に威嚇された飼い主はどことなく寂しそうに項垂れた。 「……キキが猛抗議してくる」 「すっげえ尻尾バンバンやってますよ」 「親の仇みてえな目で見てくんなよ……」  そこを一歩でも動きやがったら命はねえぞって感じの目つきだ。
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