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「とにかく今日は早めに帰って休ませる。一昨日に教習明けてそのまま連れてきちまった」
「じゃあちょっとだけ待ってて、お土産詰めてくるから。トマトとキュウリもいる?」
「いらない」
「ナスは?」
「いい」
「今年ピーマンの出来がすごく良くって大きいの沢山なってるんだけど」
「知ってる。見た。いらない」
「なら、そうだ。お米持ってきなさい」
「なんもいらねえから大丈夫だ」
実家のお母さんってどこでもこういう感じだ。
何もいらないという息子を無視して、瀬名さんのお母さんは旦那さんを引き連れ部屋の中に入っていった。
ドアが開いたその途端にココはピョコッと丸い顔を覗かせたけれど、キキを抱っこしたお母さんを見上げるとそっちにトトッとついていった。
ココちゃんもただいまー、という声に続き、ドアの向こうからは楽しそうに話すご夫婦のお喋りがお届けされてくる。
ほとんど丸聞こえだ。ドアも開け放たれているし。姿こそ見えないものの声をひそめる様子はまるでない。
「早めに帰ってきてよかった」
「僕もそう思うよ。恭吾はネコと仕事にしか興味ないのかと思ってたから」
「本人が満足ならそれでいいけどやっぱりちょっと親としてはね」
「同意見だ。親としてはちょっとね」
「連れてくるなら連れてくるでちゃんと言ってくれればいいのに。せっかく会えたのに全然お喋りできてない」
「連絡先聞いたら?」
「ええ、そうする」
「次はいつ来るのかな。キャッチボールと釣りだったらハルキくんはどっちが好きだろうか」
「どっちもやったら?」
「そうしよう」
「恭吾はそういうの付き合い悪かったからね」
「そうなんだよ。いくら誘っても全然乗ってこなかった。あいつの反抗期を覚えてる?」
「そりゃもう覚えてるに決まってるでしょ、おもしろかったもの!」
瀬名さんの顔をちらっと盗み見た。分かりやすくイラッとしている。
最終的には溜め息までつき、そこでパチリと交わった視線。この人はうんざりした顔で一言。
「な?」
「…………」
これが瀬名家か。
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