なんでもない夜

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 流していた動画の中ではココがにゃぁあっと大きく鳴いた。ご飯の催促だ。キキはその横でお行儀よく待っている。  頂点という名のお母さんにごはんを差し出された二匹。  待て、という声をきちんと聞き入れ、そこから十五秒ほど後に発せられた良しの一声。待ち構えていた二匹の猫は指示に合わせてパクパクしだした。 「これ何度見てもスゲエ。犬じゃん」 「この母親には何があっても逆らわないからなこいつら。お座りとお手と伏せもできる」 「すっげえ。……お母さん以外だと?」 「ガン無視だ」  だって仕方ない、猫だもの。  瀬名さんに後ろから抱っこされながら、抱っこしたくなるような猫たちを見る。待てができようが出来なかろうが可愛いものはどうしたって可愛い。  譲り受けた少々長めの動画はさっきからすでに二度見ている。三度目の今もまだまだ飽きない。一度目の瀬名さんは凝視していた。 「ココの前世は本気で犬だったと思う」 「分かる。俺もそう思います」 「キキの奴はやっぱ遥希に会ってから元気になったよな。毛ヅヤがいい」 「初めて会った時からツヤツヤの猫でしたよ」 「ウチの猫たちはみんな美人だ」  飼い主バカがだが俺もそう思う。瀬名家の子達はみんな美猫だ。  動画の中のココは相変わらず自分のご飯を平らげるなり隣のキキのごはんを覗き込み、気に障ったキキにギロッと睨まれ、ついでに丸い頭をバフッと叩かれ、ほんのちょっと物悲しい様子で撮影中のお母さんの方に向かってニャァっとトボトボ歩いて行った。  慰めるようによしよしされたけどお代わりは結局もらえなかった。  もうちょっともらえたら嬉しいなくらいの程度なのもやはり相変わらずで、もらえないと分かると部屋の中をトコトコと歩き回って食後のお散歩。  その間にキキも食い終わった。白い口の周りをペロッと舐める、満足そうなその表情。 「……なんって可愛いやつらだ」  メシ食ってただけだろって言いたいところだが俺もそう思う。めちゃくちゃ可愛い。 「瀬名さんのスマホにも送っときますね」 「頼む」 「ついでにガーくんの映像もあるんですけど見ます?」 「見る。いま見る」  ちょうど良くうちの母さんからもついさっき送られてきた。家の庭にあるちょっとした池でガーくんがバシャバシャはしゃいでいるだけの様子だ。  アヒルにここまで食いついてくれる三十代男性もなかなか珍しい。  俺が手にしているスマホの画面を後ろからガッツリ覗き込んでくるせいでその体重が背中にかかった。
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