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瀬名さんはそそくさ逃げるように一人でさっさとベッド上がった。その腕を横から掴んでグイグイ引っ張っても降りてくれない。
「ねえ、やりたい。やろう」
「そんなセリフをこんな状況で聞きたくなかった」
「楽しいから」
「楽しくねえよ。自分から負け戦挑んできた奴にいちいちキレられる俺の身にもなれ」
何回やっても惨敗していれば誰でも少しはキレたくなるだろ。
布団に潜り込もうとするのを阻止すべく腕を引っ張っていたが、反対にバッとこの手を取られた。引っ張られ、力で敵わないのは経験則で知っているからやむを得ず上がったベッド。
瀬名さんは百パーセントガキ扱いで人の頭をポンポン撫でてくる。
「いい子だからもう寝るぞ」
「大富豪は?」
「勘弁してくれ」
「今度こそ革命を起こすんです」
「お前あれ一番弱いゲームだろ」
「一回勝った」
「俺が勝たせてやった」
「え?」
その言葉は聞き捨てならない。
「っやっぱあの時手ぇ抜いてたんだ!」
「うるせえ」
「真剣勝負って言ったのにッ、うそつき!!」
「うるせえ寝ろ」
宥めるように適当にヨシヨシしてくる。そんなもんで騙されるかよ。
俺は腹ペコのココじゃない。ごはんのお代わりも求めていない。けれどその手は促すように上掛けをパサッと持ち上げ、その様子をジリジリ睨みつけていたが最終的にはそこへ潜り込んだ。
隣の枕に頭を乗っけた瀬名さんはすかさず俺に腕を回した。
俺は決してココではないが、ココが瀬名さんにしていたみたいに首元めがけてトンっと頭突き。おおらかに受け止めるこの大人にしっかりと抱きしめられて、キキのような澄ました顔を装いながら抱きついて返した。
「いつかあんたを大貧民にしてやる」
「おーおーやれやれ。革命起こせ」
「バカにしやがって」
「ショパンでも聴くか?」
ゲシッと足元で蹴りつけてやってもなんの打撃にもなりやしない。蹴りぐるみを蹴りまくってボコボコにできる野性的なココにはまだまだ遠く及ばなかった。すぐに瀬名さんの足に捕らえられ、布団の下での地味な攻撃は終わる。
存分に俺をおちょくった瀬名さんはさぞかし満足したのだろう。穏やかな笑い方を耳にしながら、その腕にぎゅっと抱き直された。
なんでもないようなこういう時間がもっとずっと、いつまでも続けばいい。
トランプをやるとかやらないとか、ネコが可愛いとか、アヒルが可愛いとか。
そのどれもが大切なものだと、胸を張って言えるように。
「下半期の俺の目標は瀬名さんを倒すことに決まりました」
「ワーグナー聴くか?」
「聴かねえよ」
しょうもないだけのこんな夜を、嫌いになれる理由がない。
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