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「お、ハルじゃん。愛してるよ」
「ハルー。愛してるー!」
「愛してるぜーハルーっ」
「なあハル、愛してるんだってな。俺も愛してるよ」
「あたしもー。愛してるよハル」
「あ、ハルだ。おーいッ。ハルーっ! 愛してる!」
「アイ・ラブ・ハル!!! アイ・ラブ・ハル!!!」
「ハル! ジュテーム!」
「ティ・アモっ。はるッ。ティ・アモ!!」
「ウォーアイニー、イャォシー」
「………………」
大学でダチと擦れ違うたびにことごとく同じことばっかり言われる。
これ見よがしの他言語もムカつく。ティアモってどこだよイタリア辺りか。遥希をわざわざ中国語で発音してみるのもやめろ。
隣でニコニコしている浩太は、ポンッと俺の肩に手を置いた。
「休み明け早々人気者だねハルくん」
「くたばれこのクズ」
バコッと浩太の尻めがけて叩きつけてやったトートバッグ。中身はさほど入っていなくて重量もないから間抜けな音がした。
今日が大学後期日程の初日だったことに感謝しろ。
浩太は依然としてニコニコニコニコと。その笑顔が気に障ってもう一発尻にバコッとやった。
合宿中にも色んな奴らから嫌がらせじみた電話を受けていたのに、大学に来てまでまだこんなにも。
「ふざけんなよお前。どんだけ言いふらした」
「できる限り」
「吊るすぞテメエ」
自分のうっかりが非常に悔やまれる。どうしてあの時電話の発信者をちゃんと確認しなかったんだ。どうしてこいつはよりにもよってあのタイミングでかけてきたのか。
いくら考えてももう遅い。完全な黒歴史になった。
浩太のクソ野郎はダチ連中にできる限り言い回った。浩太のクソ野郎は俺の知り合いの中で最も交友関係の広い奴だ。浩太のゴミクソ野郎のおかげで俺は朝から恥さらしもいいところ。
「なんで俺がこんな……」
「まあまあまあ、みんな嬉しいんだって。ハルにも人並みにそういう感情はあったんだと思うと感慨深いって言うか」
「お前ら俺をなんだと思ってんだ」
「クール系?」
「バカにしてんのか」
「愛してるんだよ」
腹っ立つ。
「そんなことより合宿終わったあと彼女さんとちゃんとイチャイチャした?」
悪意十割の不意打ちでしかない聞き方。悪意十割と分かりつつも前に進んでいた足は止まりかけた。
チラリと目をやれば反対にのぞき込んでくる。それとなくソロッとそらした視線。
「……してない」
「ほうほう、なるほど。二秒の間っていうのがまた生々しいね」
「してねえからな」
「はいはいはい。なるほどなるほど」
今度こそ渾身の力を込めて、浩太の尻をバゴッとぶっ叩いた。
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