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「また俺を疑ってるんですか?」
「疑ってない。心配してる」
「つまり疑ってるんですね」
「疑ってはいない」
「疑ってんじゃん」
「疑ってない。お前が心配で泣きそうなだけだ」
「うざ」
「ウザいとはなんだ」
泣いてるリーマンとか勘弁してくれよ。
「心配性なあなたに念のためお知らせしておきますが俺はそんなフワフワした男じゃありませんよ」
「わざわざお知らせいただきどうも。俺を放置してまで同郷のショウくんとメシ食いには行くけどな」
「ねちっこいなぁ」
「ねちっこいとか言うな」
「めんどくせえな」
「めんどくさいもやめろ」
だってこんなにも面倒くさい。
「変なところで繊細なんだから」
「俺のガラスハートをナメんな」
「それ威張って言うことですか」
フイッとそっぽを向かれた。どこのお子様か。
ネチネチしていてもマッサージはちゃんとやってくれる。普段よりはやや強いもののしっかりと丁寧に揉み込まれていった。
ガラスハートでめんどくさくても俺への労わりだけは欠かさない。
指を一本一本ほぐされた後は、下からこの人の手を緩く握った。
「仮に俺がおじさんシュミでも目移りしてる余裕なんかないですよ」
「そうかよ」
「ええ。俺にはちゃんとあなたがいるんです。相手がオオカミだったとしてもあなた以外には触らせません」
ピタリと、この人の手が止まった。
大きなその手とつながっている、自分の手には力を込めた。
お菓子をもらってついてっちゃたのはそれがこの人だったからだ。この顔が好きだし、この人が好きだし、花屋バイトをしてきた学生を気遣ってくれるような人だし。
わざわざマッサージの技術まで磨き、こっちが不意打ちでやんわり手を握ればげっ歯類みたいに固まっちゃう大人。
ヌルヌルした手でヌルヌルした手を今度こそクチュッとはっきり握った。
些細な物音を逐一捉えて動作を停止させるネズミ的生き物に成り果てた大人の男を、両手でしっかり捕獲したまま脅かさないようにそっとのぞき込む。
寸前まで不貞腐れていた男と無理やり目を合わせてやった。余裕のある大人のくせしてところどころナイーブな瀬名さんは、突如。ガバッと。
「ぅおっ……」
ナイーブな男だが復活も早い。予告なしに抱きつかれて小さく声を上げた時には体がグラっと傾いている。
ばふッと背中から押し倒された。さっきまで泣きそうなんて言ってたの誰だよ。
咄嗟にラグに肘をついて体重を支えた俺の上からミシッと抱きついてくるこの男。重い。
「瀬名さん、ちょッ……」
「感動した」
「わかっ……分かったから! 重いってッ、ラグ汚れんだろ……っ」
「どうせこのあとベタベタになる」
「くそばかッ!」
チョロすぎる男というのも、場合によっては考えものだ。
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