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結局その後も瀬名さんが黙る事はなく、二人で料理を食べ進めながら合間には言葉を挟んだ。いつもベランダで話しているような事から、いつもはあまり話さない事まで。
野暮ったい感じが全然ないから都会生まれかと思っていたが、瀬名さんの出身はここではないそうだ。ウチほどではないようだがおそらくはそこそこの田舎。
実家がある場所は台地になっているらしく、東に少々行った所の坂道を下ると一面に田畑が広がっている。そういう地域だったと瀬名さんは言った。
「農家やってたりします?」
「いや。家庭菜園レベルの畑なら庭にあるが」
「ああウチもです、それ。たまに野菜とか送ってきません?」
「地元を出たばかりの頃はな。この年になれば今度はこっちが送る側だ」
「野菜を?」
「なんでだよ。金をだ」
へえっと、思わず漏れた。いつもふざけた事ばかり言うけど中身はちゃんと真面目な大人だ。
「孝行ですね」
「そんなことはない。ガキの頃には散々世話ばかりかけてきた」
「盗んだバイクで走りだすんですか」
「そこまでじゃねえ。古いなお前」
話の中には自然と笑い声が混じる。ごくごく自然に。今もまた瀬名さんが笑ったから、俺もそれにつられていた。
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