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「兄弟とかは?」
「妹が一人。そっちは」
「いません。俺一人です」
うちには他に白いアヒルがいるだけだ。
「周りは兄弟いる奴らが多かったんですよ。だから昔は羨ましかったです」
「現実を知らねえからそんな事が言えるんだ。いたらいたでうるせえだけだぞ」
ちょっと苦々しいような顔。そういう顔もできるのか。
兄貴がこれなら妹さんもさぞかし美人だろう。そう思いつつ、瀬名さんの所作を視界に入れた。綺麗に食べ進めるその仕草に目を止める。
綺麗だと思う。すごく。高校時代に地元の飲食店でバイトをしていた時には、いい年こいてそこら中に食べ散らかすおっさんどもが多かった。今のバイト先でもそうだ。
だけどこの人はそいつらとは違う。音を立てず、丁寧で、なんて言うか、見ていたくなる。
瀬名さんと一緒に夕飯を食ってる。顔を突き合わせ、話しながら笑ってる。
部屋に招いた時には少なからずあったはずの緊張感はいつの間にか消えていた。前からずっとこうだったみたいに、俺達は言葉を交わした。
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