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綺麗に食べてもらった皿をテーブルの上から片付け、食後には紅茶を淹れた。ティーカップなんて洒落た物がウチにはないから、代りのマグカップに赤茶色の液体を注いだ。
不揃いなカップのうちの大きい方を瀬名さんに渡す。それからこの人が買ってきてくれたケーキを冷蔵庫の中から出して、箱の中身を上から覗けばいつものように美味そうな光景が。
折角だから二人で食おうと誘った。瀬名さんは静かにうなずいた。
俺はショートケーキ。この人はレアチーズ。甘い物も食えるらしい。それでも甘すぎる物は苦手だそう。
ただのお隣さんでしかなかったはずの人の事を、一つずつ知っていく。
「今さら言うのもなんだが良かったのか」
「はい?」
ショートケーキの上に乗っているデカいイチゴにフォークを突き刺したその時、瀬名さんは俺に向かって唐突に問いかけてきた。
瀬名さんが手に持っていたマグカップはテーブルに置かれる。その目は探るように俺を見ていた。
「下心があるとまで白状した男を部屋に上げちまって」
「ああ……いえ、別に……」
合わさった視線は離れない。イチゴをぱくりと口の中に運ぶのに合わせてそこから逃れた。
程よい甘みと微かな酸味。それを噛みしめながら考える。
下心のある男を招いた。なぜそんな男を部屋に上げたか。導き出した結論は、そっくりそのまま口に出す。
「あなたは何もしてこないでしょうし」
「お前のその警戒心のなさはどういう事なんだ。俺に対する信用だと勝手に受けとるぞ」
ふかふかのケーキに銀色のフォークを刺した。酸味のあるイチゴの後にくる生クリームは絶妙に甘い。
けれど甘すぎず、その次にはスポンジの柔らかさに包まれている。この人の視線に晒されながらモグモグと口を動かし、飲み込んでから紅茶を一口分だけ啜った。
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