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ショートケーキとレアチーズケーキをそれぞれ食べ終え、俺はさらにもう一つ。モンブランを皿の上に出したら瀬名さんから微笑ましげな目を向けられた。文句あるかよ。
人にはあれこれ甘い物を贈りつけてくるくせして、この人はレアチーズ一つが甘味の限界だったようだ。だから代わりに砂糖なしの紅茶をもう一杯勧めたら、頼むと静かに言いながら瀬名さんは頷いた。
引き延ばしている。わけではない、きっと。だけどもう少し話したかった。
余計な一言は多いくせしてあまりペラペラ自分のことを喋ってはくれなくて、それでも俺が聞いた事には包み隠さず答えを返した。
勤め先は駅の近くらしい。大きなビルだ。場所を聞いて俺も大体どの辺りかが分かった。
会社は海外に本社を置く医療機器メーカーだそうで、その本社があるのはドイツ。だから時たま向こうにも行く。次に出張があった時には何が欲しいかとさり気なく問われ、何もいらないと即座に答えた。
だったら今度は特大でモコモコの可愛いクマを連れて帰るぞ。
そう言ってかけられた謎の脅し。冗談か本気かはっきりしない。この人はこれ以上俺の部屋をファンシーにさせてどうするつもりだ。
「クマならすでに一匹いるんでもう結構です」
前にもらった約三十センチのテディベアなら寝室にいる。結局ずっとベッドの上だ。
おかげで朝起きた時には真っ先にクマと目が合う。十八の男がする生活にしてはややキツい。
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