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「あいつは毎日俺のベッドを占領してますよ」
「なんだ。ほんとに抱いて寝てんのか」
「抱きません。なんでそうなるんですか」
「ベッドにいるんだろ」
「枕の横です。そこしか置いとく場所がないんで」
テーブルの上だとかえって邪魔だし、かと言ってクローゼットの中にぶち込んでおくのも床の上に転がしておくのもなんだかちょっと可哀想だし。
「仕方ないから一緒に寝てるだけです」
枕の横で壁に凭れさせている。そうやって毎晩クマに見守られながらここ最近は眠りについていた。
仕方なしにやっている事だが瀬名さんはそこで笑った。俺が顔をしかめてもこの人は全然気にしない。
「クマが羨ましい」
「何言ってんです」
「クマの代わりに俺はどうだ」
「心から遠慮します」
自分を売り込んできた瀬名さんを切り捨て、フォークいっぱいにモンブランを掬い取って頬張った。その時もやっぱりこの人は俺を見ている。じっと静かに。見守るみたいに。
食っているところを他人に凝視されるのは心地の良いものではない。普通ならそう。
だけど今目の前にいるのは瀬名さん。その柔らかい眼差しは、俺がこの人を見ていたくなると感じる時の内心を、否が応でも思い出させた。
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