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「悪い物ではないはずだ。飲食店をやってる知人から勧められた。そこの食材にはハズレがないらしい」
「そりゃそうでしょうよ見るからにいい感じでしたもん」
「なら文句ねえな。使え」
「あんた日に日に態度デカくなっていきますね」
日を追うごとにふてぶてしくなっていく男は委細構わず手提げの付いた紙袋を俺に押し付けてきた。
ここまで来ると断るのも面倒になってくる。どうもと適当に呟いてからオレンジタルトを受け取った。
オレンジのタルトは初めてもらった。イチゴのタルトとイチジクのタルトなら前にもらったことがある。この人が選んでくるスイーツだからなんだろうと美味いだろう。しかし今ここで問題なのは、部屋の中のあの段ボール。
「瀬名さん……」
「迷惑だったか」
「……あの量はさすがに俺一人じゃ食いきれません。このままだと腐らせます」
わざわざ飲食店経営の知り合いにまで尋ねて選んでくれた物だ。宅配パターンは初だったから驚きはしたけれど、礼だと言われたその気持ちが嬉しくない訳じゃない。それにできれば、ちゃんと使いたい。
瀬名さんの表情はいつも通り。そこには裏も何もない。この人は純粋な親切で食材を送りつけてきた。俺が何も言いさえしなければ今日もこのまま身を引くだろう。じゃあなと言って、玄関を閉める。
それ以上近づいてはこない。俺が誘いさえ、しなければ。
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