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「手伝うか」
「もうすぐできるんで大丈夫ですよ」
「……すまん」
「だからなんでさっきから弱気なんですか」
ダイニングテーブルの前でじっと座っているのはどうにも落ち着かないようだ。ちらりと後ろを振り返れば、行き場の無いような目しをした瀬名さんが子犬のように俺を見ている。
「俺の分が増えるのは手間だろ」
「一人分作るよりもむしろ楽ですよ」
「……そうなのか」
「瀬名さんって料理しない人?」
自分一人のために作る料理ほど面倒なものはない。節約のために俺はやっているけど、実際問題少量だけ調理する方がまとめて作るよりもかえって手間だ。気分的にも億劫になる。
それが分からないという事は、この人は料理をしないのだろう。その推測はどうやら正しかったようで。
「しねえな」
「やっぱり。いつも何食ってるんです?」
「適当に」
それは答えになっていない。
「なんて言うか、あなたはメシとか普通に抜きそうですよね」
「繁忙期になるとたまに」
「ダメですよ。忙しくてもちゃんと食べなきゃ。もしかして食自体にあまり関心ないとか?」
「お前のメシが美味いのは分かる」
そんな事を聞きたかったわけじゃない。愛想笑いにもならないような乾いた声がハハッとこぼれた。
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