隣人とゴハン

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***  あの日を境に瀬名さんと一緒に夕食を取るのが恒例になった。この分なら貰った食材も駄目にしてしまう前に使い切れるだろう。  もうすぐ最後となるそれらの残量を目視した。今朝は普段よりも少しだけ早起きした。キッチンに立つために。  ここ数日の間で分かった事がある。一見すれば完璧な大人の数少ない欠点だ。  食生活が大変に悲惨。あの男は自分の食事にまるで関心のない人間だった。  仕事と生活に支障が出ない程度の体調管理ができていればいい。それくらいに思っている節がある。毎晩向かい合っているうちにそんな様子が伝わってきた。  それでも辛うじて好みというものはあるらしく、カップ麺の類はとりあえず好きじゃない。コンビニ弁当もあまり買う事はないそうだ。ファストフードを利用する機会でさえ滅多にないと。あれは悪魔の食い物だとまで言っていた。  ならば何を食って生きているのか。その答えは栄養補給系のゼリー飲料、もしくは携帯補助食。どこの軍人だ。  本人が言うには仕事が忙しい時に限っての事であって、普段は外食やら何やらもう少しまともな食生活をしているとのこと。どちらにせよ健康的であるとは言えないのだが。  あの人の事を知れば知るほど呆れ返った。そして同時に不安にもなった。  うちのお隣さんは放っておくと栄養失調で死ぬかもしれない。見た目は至って健康そうだがこのままではいずれガタが来る。
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