隣人とゴハン

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 大学に行く時刻を迎え、荷物と鍵を持って玄関に向かった。いつも大学へ持って行っているカバンが一つと、それから今日はもう一つ。手提げの付いた小さい紙袋。それをしっかり握りしめ、扉を開けると同時に左側へと顔が向く。  隣の部屋のドアもちょうど開いた。 「瀬名さん」  声をかければすぐに目が合う。相変わらずスーツには皺ひとつない。 「おはよう」 「おはようございます」  外に出てお互い戸締りをした後は、二人揃って目指すのが階段。今にも壊れそうなエレベーターならあるにはあるけど一台しかないし、朝は住人が忙しなく動き出す時間帯だ。三階からなら階段を使った方が断然早い。  瀬名さんの後ろについて階段を下りながら大きい背中をじっと見つめた。  瀬名さんは高校時代に水泳をやっていたそうだ。脱いだら凄そうだと一瞬だけ想像しかけて、馬鹿な事を考えた自分に心底げっそりさせられた。  マンション前の道に出たあとは何食わぬ顔でこの人の隣を歩いた。持っている紙袋をちらりと見下ろす。  ペラペラの取っ手を握り直し、瀬名さんの顔は極力見ない。前だけを見るようにした。 「あの俺、今日バイトでちょっと遅くなるんです」 「そうか。帰り気を付けろよ」 「……どうも」  この人はなんだってこう。女の子に言うようなセリフをサラリと。  こそばゆさに負けそうになるが、ここで負けたら早起きした意味がない。 「それで今夜は晩飯作れないんですけど……」 「ああ。俺のことは気にしなくていい」 「……代わりに昼メシ作りました」 「あ?」  ガサッと突きつけた紙袋。この人の足がそこで止まり、それに合わせて俺も止まった。
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