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この中に入っているのは弁当だ。オーソドックスな二段重ねの弁当箱を、これまたオーソドックスな弁当包みで包んである。
定番の卵焼きは入れた。唐揚げだって朝から揚げた。野菜も入っている。彩りは悪くないはず。バランスも考えた。文句はないだろう。
「食ってください」
「…………」
「迷惑ですか」
「……とんでもない」
「ならどうぞ」
いくらか強引に受け取らせた。瀬名さんは困惑した様子で俺を見てくる。
「さすがに弁当まで作ってるとは思ってなかった」
「普段は作りませんよ。俺も昼は学食使ってます」
「……これは?」
「ただのお節介です。あんたの食生活知っちゃうと心配にしかならないんで」
瀬名さんの態度はいつもの通り冷静。それでも心なしか動揺した様子が表情に混じっているのも分かる。
「俺がやりたくて勝手にやってます」
「…………」
いつかこの人に言われたそれを、そっくりそのままお返ししてやった。緊張感が爽快感に変わる。落ち着かないような顔をしている時の少し珍しい瀬名さんは、割とそんなに嫌いじゃない。
「……若い奴の順応力ってもんは怖いな」
「そうですか。俺は今ちょっと気分がいいです」
「だろうよ」
微妙な顔をして瀬名さんは笑った。
しかしそこはやはり相手が悪い。ただでは起きないのがこの人だ。
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