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「遥希」
「はい?」
「ありがとう。会社で弁当見せびらかす」
「やめてください」
一瞬前までの戸惑いはどこへ。冗談なのか本気なのか分からない事を宣言してくる。弁当の中身は他人に見せびらかせる程の物ではない。恥ずかしいからそれだけはやめてほしい。
隣からぽんっと頭に手を置かれても拒まなかった。拒む必要が俺にはなかった。
軽く撫でられ、照れくさいから視線だけ下げる。時々される子ども扱いは果たしてどういうつもりなのか。
頭からはすぐに大きな手のひらが離れていった。ちらりと見上げたその顔に目が止まる。
この人が無駄に男前なのはいつものことで、それがちょっとだけイラついた。
「じゃあな」
「……はい」
別れ道に差し掛かるまではいつもあっという間。歩く距離は変わらないのに、日に日に短くなっているような気がする。
時間が過ぎるのが早い。そう思うのはどういうときか。
事態は悪化の一途をたどるばかり。この状況はかなりまずい。
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