酸っぱいやつと甘いやつ

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 もらった食材を駄目にさせたくない。そのため瀬名さんを夕食に誘った。  理由は単純。なおかつ明確。だから俺は今困っている。瀬名さんがくれた食材はもう、実のところ底をついていた。少し前からすでにもうない。今の俺にはあの人を、夕食に誘う口実がない。  食材を使い切った事実は伏せていた。何食わぬ顔で今でも一緒に瀬名さんと晩メシを食っている。  知らせなかった。使い切りましたと。食材はもうありませんと。それを悟られないように注意しながら二人分のメシを作っている。  俺が使い切ったと告げてしまえば瀬名さんとの夕食は終わるだろう。でも終わるのはまだ少し、先の事でもいいんじゃないかと。  そう思うと言えなかった。知られたくないからシレッと隠した。  ところがそうして事実を告げずにいたある日のこと。またもやウチに箱が届いた。デカい宅配物を受け取りつつ湧き起こるのは嫌な予感。  伝票に明記されている送り主は瀬名さんだった。そして間違いなく俺宛てだった。  箱を開けると俺の予感は見事的中。ちょっと良さそうな食材がごっそり。またやりやがったあの男。
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