残念な大人

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「瀬名さんってなんで俺の前でタバコ吸わないの?」  これは単純な興味だ。スモーカーなのに俺にはその姿を見せない。  どうしてなのかと問いかけてみれば、瀬名さんは少し困った顔をした。 「最近の若い奴らは喫煙者を嫌うだろ」 「そうですか?」 「自分らが吸わねえからな」  言われてみれば確かにバイト先の先輩達にも喫煙者はいない気がする。 「お前は嫌じゃねえのか。横でタバコ吸ってるおっさんなんか鬱陶しいだけだろうよ」 「あなたは時々すっごい自虐的になりますよね」 「三十代のメンタルなめんな。ちょっとしたことですぐにズタボロだ」  こんなにも無駄に粘り強い人がそこまで脆弱なメンタルだとはとても思えない。  というか三十代なのかこの人。三十前後だろうとは思っていたが、ちゃんと年を聞いた事はなかった。 「正確にはいくつなんです?」 「三十二」 「なんだ、全然おっさんって年じゃないですよ」 「学生からしたら十分におっさんだろ。お前とは一回り以上も離れてる」  普通に計算して十四コ違い。新たに加わったこの人の情報だ。だがそれよりも。 「……気にしてたんだ」 「そりゃあな」 「意外かも」 「年寄りは若い奴に引け目を感じるもんなんだよ」 「年寄りって……」  三十二歳で年寄りになるなら本物のシニアはどうなるんだ。 「瀬名さんの見た目なら二十代でも全然通用すると思いますけど」 「若く見られてもそれはそれで男として微妙なところだ」 「なんなんですかめんどくせえな」  年寄りって卑下してみたり若く見られるのは嫌だと言ってみたり。
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