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「……あれですね。黙ってりゃイケメン」
はっ、と瀬名さんがおかしげに笑った。
これで間違いないだろう。黙ってさえいれば文句なしにカッコイイ。黙れない人だから何かと残念だ。
「あなたは色々もったいないと思う」
「黙ってたら惚れてくれるのか」
「惚れねえし。そういうトコですよ」
呆れ気味に俺が返しても瀬名さんは挫けない。この男のどこにメンタルの弱い要素があるのか教えてほしい。
「どうしても惚れねえか」
「どうしても惚れません」
「どうすれば惚れるんだ」
「俺に聞かれても分かりません。ケーキもらったところで惚れないのは確実ですけど」
今はもう瀬名さんがくれる物なら何であっても遠慮なくもらっている。しかしこうやって話しているのは、貢ぎ物が理由ではない。
「相変わらず手強いな」
「あなたは相変わらず諦めが悪すぎます」
「俺の長所だろ」
「短所じゃないんですか」
黙ってりゃイケメンな男はやっぱりここでも黙らなかった。諦めずにグイグイ来る。短所であろうと長所であろうと俺にとっては迷惑な話だ。
「ケーキが駄目ならマカロンで総攻撃かけてみるか」
「やめてホント」
うんざりと吐き捨てても瀬名さんは満足そうなままだから、ついついこっちまでそれにつられる。並んで座るこの空間には二人分の笑い声がクスクスと混ざっていった。
瀬名さんのマグカップの中身が底をつくのはもうすぐ。完全になくなってしまえばこの人は腰を上げる。だからそうなってしまう前に、もう一杯を俺が勧める。そうやって引き止めているのだって、貢ぎ物のせいじゃない。
「おかわりいります?」
「……ああ。頼む」
黙らないこの人と、もう少しだけ話していたい。
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