Hide and Seek

１ 人気者

　華乃(かの)は今日もお気に入りの喫茶店の、お気に入りの窓際の席で、テーブルに出されたコーヒーとケーキの位置をちょいちょいと直して、スマホを構えてシャッターを押した。
　一度保存してから加工アプリで写真を呼び出し、色味を少々派手にしてからフレームをつけてＳＮＳにアップする。ハンドルネームはかのん。

＃お気に入り　＃今日のスイーツ　＃Hide and Seek

アップと同時にコメントがたくさんつき、お気に入りを表す数字がみるみる増えていく。

「わー、今日もかわいい！」
「おいしそう。もうダイエットの敵。テロよ、テロ」
「素敵な写真ですね。かのんさんみたいな写真が撮れるようになりたいです」

そのひとつひとつに華乃は丁寧に返事をする。

「ありがとう」
「ダイエット？ 明日から明日から」
「ありがとうございます。褒められるとどこまでものぼっちゃう」

　華乃にはフォロワーが２５００人もいる。ただの写真好きの女子大生としては結構な人気者だと自分でも思う。
　ケーキを食べ、コーヒーをすすり、合間に返信。そんなことをかれこれ1時間やっている。「今日はまだ返信こないなぁ」と思った瞬間、

「今日の写真も美味しそうだね。いつもの店？」

コメントがついた。keiというハンドルネームのその人は少々気になる存在。プロフィール写真は猫だ。

「こんにちは。そうです。Hide and Seek《かくれんぼ》です。授業の合間なの。kei君は？」

「今からバイト。今日授業ないんだ」

　『Link』はいまや国民の７０パーセントは登録していると言われるＳＮＳで、無料電話機能もあればメッセージ機能もあり、グループ化して繋がることもできるので職場や部活の連絡ツールとしても用いられている。既読すれば「既読」とつき、可愛らしいスタンプが用意されていて自分の感情をうまく伝えてくれる。写真を撮って保存できるアルバム機能もついている。実に使い勝手がいいＳＮＳである。
　そのメッセージ機能を使って写真を教えてほしい、という依頼は結構華乃にやってくる。keiもその中のひとりだった。大学が休みに入る７月にはリアルで会う約束をした。