3 飯は熱いうちに食え

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「ここ……です」 彼女は煉瓦の壁面の3分の1ほどを蔦が覆っている瀟洒なビルの2階を指さした。木製の頑丈そうなドアの上の白いシェードには黒い字でHide and Seekと書いてあり、ランチメニューが書かれたボードが出されている。オムライス、ナポリタン、ピザ、ハンバーグ。洋食屋だな。 「うまそうだね」 「うん。美味しいんです。全部手作りで」 ギイっと扉を開けると、木をふんだんに使った内装と、赤と白のチェックのテーブルクロスが目に飛び込んできた。店内には美味そうな香りが漂っている。 「いらっしゃいませ。あら華乃ちゃん、今日はお友達と一緒なのね」 優しそうなマダムが俺たちを窓際の席に案内してくれた。今日のおすすめランチ、オムライスのセットを2つ頼む。卵がライスの上に乗っているタイプのヤツとサラダが運ばれてきた。「美味しそう」と彼女は嬉しそうな声をあげ、やおらスマホを取り出した。そしてスマホを構えると言った。 「ね、圭一さん。フォークをもって、このオムライスの卵のところをちょっと切って」 早く食いたいんですけど、と思いながらも俺は言われたとおりにフォークを持ち、ふわふわのオムレツに切れ目を入れた。とろり、と半熟の黄身が流れ出した刹那、彼女はシャッターを押し、それからちょっと何かをしてからスマホをしまった。そしてオアズケを食った犬のごとくであったろう俺の顔をみて、 「圭一さんはこういうの嫌いですか?」 と恐る恐る聞いてきた。あんまり好きじゃないな。うっかりと本音を言ってから慌てて「最近は写真撮影する子多いよね」と取り繕ったが時既に遅し。食事の間中、俺たちは無言のままフォークとナイフを動かした。気まずい。非常に気まずい。
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