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「ウチには食べ盛りのワンコと母がいるので、死んでられないんです」
「でしょうね、そしてああいう技をもっとも得意とするのは狐人間だと断言しておきましょう、この意味はお分かりですな?」
引きつった顔で頷くと朧は満足そうに微笑んで桜舞と共に部屋を去ろうとしたが、ドアの前で今日はグミを持ってないのか尋ねられる。
「新作のレモンとグレープがありますよ」
全部渡すと嬉しそうに目を細め帰って行ったが、ドアを閉めようとすると、足でガツッと挟まれ一瞬ビクッと驚いた。
「も、もう少し待って下さい、今月末には必ずお返ししますんで」
「こっちも商売で金貸しやってるもんでね、手ぶらでは帰れないんですよ」
私の背後で瑠里が代わりに話すと、相手も素早くノッてくるので、間違いなくウチの社長だ。
「……なんだ、じじいなら強引にドア閉めれば良かった」
「待ってぇ、それは止めて洒落にならないから」
手でドアを固定し抵抗したので力を緩めると、ツカツカと中に入ってから皿を見て顔をしかめている。
「狐めさっきの現場に居たと思ったら、ちゃっかり姉妹の部屋に上がり込んで、何か吹き込まれてないでしょうな」
「どっかの死神達が私らを置いて帰ったのが事の発端ですが?」
あくまで作戦だと言い訳をしていたが、それなら事前に相談がないのはおかしいと抗議しておいた。
「危険で変な技使ってくる敵がいるなんて聞いてないし、モノホンの狐の方が信用出来るんですけど」
「騙されるでない、あのじじいの腹の中は宇宙の果てまで黒いぞ」
必死になる所が逆に怪しくて、もう相手にもしてなかったが、滋さんと歩兎さんが入ってくると条件反射で睨みを効かせた。
「そんな怖い顔しないでよ、和菓子は沢山お渡しするから」
私の心のアンテナがすぐに反応すると、滋さんは帰ったと見せかけて、二人の様子を監視してたと余計な一言を漏らした。
「はぁ?!だったらもっと早く助けてくれて良かったじゃん、朧が来る前に鍵開けてくれたら済んだのに!」
「ふぅ……まだ詰めが甘いな、もう少し経つと俺の優しさに気づくと思うよ」
滋さんに冷たい視線をやると、歩兎さんは箱に入ったどら焼きを勝手に試食する始末で、慌てて止めに入った。
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