河童の里で栗拾い

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「二袋ある……買いに行ったら幾らかな」 「給料以外でこれも貰えるなら、頑張った甲斐もあるよね」 母のホクホク顔も浮かび、お互いに目を見てニヤリと笑っていると社長がドアから覗いているのが見えたが、あえて無視してコーヒーを急いで飲んだ。 「なになに?あからさまにガン無視しなくてもよくない?さっき事務のおばさんと話してたからヤキモチなのかな」 「気持ち悪いんだよじじい、それに誰と話してもどうとも思わない」 「照れおってからに」 勘違いの言葉を平気でいうキツネに溜め息を漏らしていると、開けてと言わんばかりに小さな箱を二つ並べたが、不気味すぎて手を伸ばさなかった。 「ワシからではない、リピネからじゃ」 すぐに箱を手に取り開けようとすると、イナリは食べ物だと思ったのか膝の上に乗って覗き込んでいた。 「……笑ったらいいんですか、喜んだらいいんですか」 中には綺麗なパールのピアスが入っていたが、瑠里はネックレスのようだ。 まさか豚人間から真珠を貰うとは、今回のオチをすべて持っていかれたようで苦笑いするしかない。 「あのドケチが百合さん達の為に宝の一つを加工してくれたんじゃよ、一点物だから大切にするといい」 本物の宝石すら見た事がないが、上品に薄っすらピンクがかったパールは光の加減で虹色にも見え、箱から出さない方がいいと貧乏心も警告している。 「えっと、家に持って帰るの怖いんでここで預かって貰ってもいいですか?」 「マジで?田舎の神棚に置くか、おでかけにつけたらいいじゃん」 「強盗に入られたらどうすんだよ!しかも貧乏人は高価な宝石つけて出かける場所なんてないんだよ!」 納得したように頷かれると箱をそっと受け取り、懐にしまうキツネはしっかりとお預かりしますと断言してくれ、言ってみるもんだとホッとした。 姉妹らしいと笑いも入ったが、家を留守にする事が多いし豚の世界のトップの家宝を、気軽に机には入れておけない。 「今回もいい勉強になりましたか?」 「勉強っていうか一歩間違えたら死にそうでしたが、あの金縛りみたいな技を解く練習をしないとです」 満足した笑みを浮かべるキツネを見ると、どんどん危険なランクアップに誘導されてると知りつつ、給料を思い浮かべると辞めるという文字は全く出て来なかった。
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