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紙袋を下げ王子達とダッシュして帰宅すると、母が小躍りしながら軽々と袋をリビングに持って入る。
何度も見てるだけあって藤井屋だと気づいたらしく、お茶を入れどれから開けようかと目を輝かせていた。
「娘におかえりもないの?王子もここにいるんだけど……」
「あっ、でもイナリとは一心同体だから、出迎えの気持ちは伝わったよね~?」
完全に一瞬忘れてたくせに、絶対に認めないのが可愛くない年寄りの代表といえるし体型も同様だ。
「ドラム缶体型の婆さんと一心同体な訳ないでしょ気持ち悪い、王子は人間だときっと青年だよ」
「そうだよアイドルデビュー出来るイケメンで、自分でも魅せるツボを心得てるから絶対に売れる!」
季節のカステラを頬張り井戸端会議みたいな会話をしていたが、イナリ達にもおすそ分けし平和でおバカな一家だ。
「イナリは毛の色がアレだけど、キセロは可愛い系かな?」
アレとぼやかしているが、初めて見た時に『毛の色が汚い』と言ったのを覚えているし、キセロの本体も知っているので吹き出しそうになる。
「ウチの王子は皆凛々しくて、逞しくて勇者のように格好いいよ」
瑠里は自信満々だが本当の事なので、大きく首を縦に振り親バカ全開なうえ、会話が呑気すぎて仕事を一気に忘れさせてくれた。
母の口に運ぶペースが早すぎだと妹が注意し、イナリは満腹になったのか股を開いて眠り始める。
こういう時間を過ごす為に、必死に働いてるんだと光景を見ていたが、段々と言い合いがエスカレートしてるのでテレビのチャンネルを変えた。
「ちょっと――!それ見てるんだけど」
「喧嘩してたし見てないのかと思った」
澄ました顔でコーヒーを淹れに台所に向かうと、案の定言い争いは治まったが、逆に注文をされてしまう。
「ホットコーヒーが美味しい季節になったよね、私の分もお願い!」
直後に妹にも頼まれ渋々コップを出し準備をすると、微妙に母は眠そうで瑠里が毛布を掛けていた。
「この人は自由でいいね……」
これから食欲の秋というか年中だが、特に拍車が掛かりそうなので、監視を強化しようと寝顔を見て決意を固めていた。
(小麦イザリ屋帳⑩完)
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