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呑気でいいよなとコーヒーを飲んでいると、王子の服が変わっているのでまさかとは思ったが聞いてみた。
「イナリは留守番だよ?なんで新作に着替えてんの」
「ハツさんとプチ旅行のお誘いがあって……」
なのでイナリ達はお願いしますというように、餌と着替えのセットを入れたバッグを瑠里の隣に置いてある。
「なら連れて行くけど気をつけて行って来てよ?」
すっかりハツさんにはお世話になっているが、母の嬉しそうな顔を見ると、何の楽しみも趣味もなかったのでいい傾向だと無理やり納得させる。
玄関で見送られると王子達もお出かけだと気づき、テンションが上がっているのかグンとリードを引き、徒歩五分の道のりを一分弱で到着した。
いつものようにロッカーで着替えを済ませると、説明の為部屋を指示されるが、リーダー達の姿はないのでやはり栗拾いになりそうだ。
木村さんが説明に入ると栗というだけあって、イベントが行われるのは山側だが、近くには川や沼地が多い穏やかな田舎の筈だった。
なのにここ数年で急に様子が変わり、土地を買い占め住人から賃料をせしめ、払えない家から娘が攫われる怖い場所になっている。
「なんで誰も訴えないんです、チクッたと仕返しされるんですか」
「そうね、それに家族が巻き添えに合うのを恐れてるんだと思う」
どこの世界にも悪い奴はいるが、何となくコイツは私が最も嫌うパターンなのが想像される。
ただ噂というのは広まるもので、今回のイベント話が持ち上がったらしいが、トップからの案のようで首を傾げた。
「でもうっちゃん達、そんな機転が利くタイプには見えないんですが……」
「うん?トップは父の透水じゃん」
ハッとして口に手を当て、完全に忘れてしまっていたが、あの目つきを思い出してゾクッとする。
帰り際に軽く話をしただけだが、冷たく刺さるような視線が怖く感じ、将来うっちゃん達もあんな風になるのかと心配になった程だ。
余計な事を考えてる間も説明は続き、今日は向こうのホテルで歩兎さんと合流し、翌日イベント会場に移動して住人の様子を視察。
そして栗拾いも代理で参加するのだが、異変があれば木村さんに連絡して執行準備をし、現場で待機というのが作戦の流れのようだ。
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