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歩兎さん達とロビーで落ち合うと迎えの車が到着し、昔のイギリス刑事ドラマで見たような、黒で上に縦長のフォルムが可愛いと思ってしまう。
見た目はクラッシックカーだが、乗り心地は静かで少々の段差も気にならず快適なので、最近のタイプだと思われる。
あえて外装だけヴィンテージ仕様なので、固執した主の趣味が伝わってくるようだ。
運転手が年配の男性なのは、警戒心を解く作戦かもしれないが、笑った後に時折見せる一瞬の目つきが気になる。
貧乏育ちで人の顔色を見て育ったので、オジサンがこの時間で楽しい印象を持ってもらうよう命令されていて、緊張しているように感じる。
そういう大人や周りの空気を素早く察知し、合わせた行動に出るとお菓子を貰えたり、関係が上手くいくと子供ながらに知恵をつけた。
透水は自前の車で来るようだが、蕩尽さんがお供でいるので待ち合わせは現地だと聞いている。
車内では歩兎さんがうわべだけ楽しそうに話をしていたが、瑠里もこの空気に気づいているのか目を閉じていた。
色んな世界と交流があるプロに任せ、コミュニケーション能力が低い者は黙っておくのが一番だ。
道が悪くなってきたのか揺れを感じ目を開けると、想像以上に大きく立派な栗山が見えてきて、前のめりになる。
「うわぁ、沢山取れそうですね」
「ええ、イベントはあの山で行われますがまだ十分に残ってますから」
栗の話をした時だけは普通の表情になった運転手さんとそこで別れ、飾り付けされた看板や雰囲気で場所は分かるし帰って貰う事になった。
「別の世界の住人も参加するんですね」
「恒例行事の一つだけど、トップが見学するのは初めてだよ」
色んな種類の人達が受付を済ませ後ろに並んでいると、編んだかごを背負う栗入れと中身を引き抜く長めのトングが手渡された。
瑠里はタオルを頭に巻いてやる気満々だし、私はポロッと落ちてる栗の大きさを見てテンションがアガり、早く拾いたくてウズウズしていた。
「瑠里あの栗見て、手のひら位の大きさあるよ」
イメージトレーニングでカゴに入れる素振りをエアーで練習していたら、掛け声と共にハチマキをした男性四人がスタートラインに集まっていた。
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