河童の里で栗拾い

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「全体――っ止まれ!イチ二ッ」 声の大きさと本気さに周囲の参加者は引いていたが、気にせずリーダー的存在の河童人間が指示を出している。 「いいか、前回の屈辱を晴らす為、練習してきた成果を出し一丸となって戦うように!」 拳をあげ他のメンバーも気合十分だが、妹は隣で前に負けとんかいと耳打ちするので、笑いを堪えるのに必死だった。 ルールの説明に入る河童人間を注目すると、山の中のロープが張ってあるエリアまで栗拾いが自由で、カゴ一杯になったら一旦戻って計量してもらう。 他人から奪ったり妨害行為は反則とみなし失格、ペットは散歩感覚で参加してもいいらしく犬や……何の生物か分からない物体を肩に乗せてる者もいたが、見なかった事にした。 透水や歩兎さん達は観客用というか、特別に設けられた席に座っているが、その中で一人気になる存在を見つけた。 透水の隣に座ってる河童人間だが、あれがもしかしたら飾磨(しかま)なのかもしれない。 無表情だが話している姿は両極端で、河童の世界のトップは氷のように冷ややかなイメージだが、隣にいる青年は秘めたる火の印象を受ける。 結果どちらも平気で人を殺しそうだし、怖い以外に思いつかないが土地を買い占めと聞いていたので、もう少し年配だと思っていた。 「ねぇ、あれって狐じゃない?」 「――はぁっ?!」 振り向くとキツネ面の社長の事ではなく、本物の狐人間で老体と孫のペアに見えるが、胸騒ぎがするのは爺さんがリンゴ味のグミを摘まんでいたからだ。 「(おぼろ)桜舞(さくま)っぽいね」 色んな場所を訪れるのは、仕事柄無理ないのかもしれないが、たまに興味本位で私達の前に現れたりするので心臓に悪い。 「偶然かな……それとも今回の仕事の不吉な前触れかな」 瑠里が気づく前に、とっくにこちらに気づいてる筈なのに、あえて声を掛けてこないので嫌な予感もしてくる。 「おのれぇ、狐といえば山育ちで強力なライバルになるやもしれん」 「そっちに本気になってんじゃねーよ!あくまで私達は代理だから」 スタートラインに立つと、説明役が優勝商品は特別なモンブランと栗どらになりますと発表したので、指なしの手袋の上から軍手をはめ本気モードになった。
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