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年齢的にはウチの母と同じ辺りに見え、体型は違うが何となく親近感を覚えるのは、伏し目がちの視線だ。
私達も人と接するのが苦手だが、理由の一つは貧乏で話が合わないのもあり、この人もイザリ屋に入る前のウチの家族と同じ目つきだった。
にも関わらず勇気を出し声を掛けてくれたのは凄く嬉しいし、あの頃の私なら、他人の面倒をみる余裕はないと放っておいたと思う。
いや今でも声すらかけずに帰ってた筈なので、この方は本当にいい人だと感謝しながら後に続いていた。
女性の名は榎原といい、母と二人暮らしで以前は栗栽培をしていたが、今は自分達が食べる分だけの田畑で生活してるらしい。
旦那と父は亡くなり、娘は飾磨の所へ働きに出たので日々暮らせればいいと笑みを見せるが、胸が苦しくて締め付けられそうになる。
旦那は分からないが娘は賃料が払えなくなり連れて行かれたと思われ、隠しても私達はこういう空気に過敏な為、色々と気づいてしまう。
娘さんと重なって声を掛けてくれたのだと思うと、ジッとしてるのも申し訳ない気持ちになっていた。
榎原さんの家は貧しいと言っても、元は栗山があって普通以上の生活をしていたようで、二階もあるし立派なお宅だ。
玄関に入ろうとした所で、後ろから飾磨の手下らしき男性に、泊まる場所なら準備がありますと声を掛けられた。
ここで断れば榎原さんに迷惑がかかるのは分かっているし、こちらから様子を見に行こうと思ってたので一石二鳥だ。
「助かりますぅ、置いてけぼりで困ってたし、榎原さんに強引に頼み込んでしまって」
「迷惑かけてすみませんでした、こちらにお世話になりますので、ご家族の方に宜しくお伝え下さい」
榎原さんはキョトンとした顔をした後で、お辞儀をすると静かに家に入り、会場からの監視に気づくのが遅かったと反省した。
「ホテルもありますが、すぐそこにイベント主催者の城もありますけ……」
「お城って素敵だね姉さぁん!記念に泊めて貰いたい」
ワザとらしいと内心思ったが、向こうもこちらにとっても城の方が都合がいいので、瑠里の小芝居に付き合って頷いた。
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