疑似新婚生活

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疑似新婚生活

少しハードな散歩を楽しんだので、王子には餌をあげシャワーと着替えを済ませメークすると、チェックアウトした。 イタリアの街並み……いや、河童の世界の観光を楽しみたいのは山々だが、本来の目的は賊の仲間から宝を奪い返す事。 ノートに書かれた通りにタクシーを拾い、現場に向かう間は窓の外を眺めていたが、王子は膝の上で眠っていた。 三十分ぐらい走った場所で降ろされたが、どう見ても港なのでノートのページを捲る。 ここで名物のアニマルちぎりパンとマンゴージュースを買い、フェリーに乗ると書かれていたので、イナリの顔を見てから売り場に向かった。 ここまでは完全に観光を楽しんでいる感じだが、パンとジュースが買えるし全く不服もない。 「うわっ、可愛い!」 店内に入るとクマやパンダや犬やネコの顔が九つ並ぶ、パンの陳列棚に観光客が賑わっている。 規則正しく並んでいる顔がとても可愛くて、社長ならフォトジェニックと言うだろうが、新作にいいかもとクマとネコを選んで店を出た。 スマホで写真を撮ってからジュースを買い乗り場に向かったが、イナリがずっと上を見てくるので、後であげるからと苦笑いする。 フェリーなのに電車みたいに各駅で止まるのは笑えてきて、中はクーラーが効いていたが外の景色が最高なので、あえて風に吹かれ頭をボサボサにされたい。 観光客は同じ考えのようで皆外に出ていたが、ここで暮らしてる人は、クーラーの部屋にいるのですぐに分かる。 食べるのが勿体ないクマの顔のちぎりパンを、イナリにやると躊躇なくガツガツ食べていたが、私は少しの間眺めていた。 名物というだけあって見た目だけでなく味も美味しいので、クマのシリーズはすぐになくなってしまい、写メに撮っておいて正解だと思った。 ジュースも絶品だったので、ランチして帰れたら最高だが徐々に人が減っていき緊張感が高まる。 観光客は目的駅が少し手前で、私は終着を目指すようだが、可愛らしい格好の女性がパラパラいるのでイベントのグループだと思われた。
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