ぎゅってして。

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「お前も男娼だったのか。怪我は? 痛い所はないか?」 「大丈夫……僕が悪いんだ。客がシャワーを浴びてる間に、金だけ盗ったから」  溢れる涙を拭って、少年は力なく笑う。無理に笑顔を作っているのが見え見えだったが、弱みを見せたくないのだろう、私もそれに乗って冗談めかして言った。 「とにかく、今日はもう帰った方が良い。アイラインが滲んで、まるでパンダだ」 「はは。でも、帰る所……ない」  図太くなければ、この商売は勤まらない。少年は、男娼にしては酷く儚く呟いた。 「では、私の家に来い。その痣ではしばらく客は取れないだろう。それまで、私の家に居ろ」  男娼なら一夜の宿に困らないくらいの金は持っているだろうと思ったが、それでも「帰る所がない」という少年に、無性に保護欲がわき起こった。こんな気持ちになるのは初めてだ。私は迷いなく、少年を抱き起こしねぐらに向かって歩き出した。 「着いてこい」     *    *    * 「名前は?」  暖かいミルクティーをテーブルに出すが、少年はキョロキョロと部屋の中を見回していた。十七階建てのマンションの最上階が、私のねぐらだった。一般のサラリーマンには手の届かないような部屋だ。 「名前は?」  私は辛抱強く、もう一度訊いた。 「あ。コヴィ」 「私は『シリウス』だ」 「シリウス? 星の?」 「通り名だ。コヴィは本名か?」 「うん」  名を呼ぶと、コヴィは酷く嬉しそうに微笑んだ。滲んだアイラインを落とした素顔は、まだあどけないと言っても良いベビーフェイスだった。痣になった片目が痛々しい。 「男娼として生計を立てていきたいなら、客から金を盗ったりしない事だ。信用だけで成り立っている商売だ、口コミは意外と広がるのが早い」  私もテーブルに着いてブラックコーヒーを飲みながら男娼の心得を重々しく語ると、コヴィは途端に笑顔を曇らせて俯いた。
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