プロローグ

1/3
前へ
/166ページ
次へ

プロローグ

 授業が終わった午後の昼下がり。正門を抜け、下校していく生徒たちの姿を眺めながら鈴音は窓を開けた。渇いた秋の風が吹き込んでくる。 「お願いします。早く探してください!」  振り返った先では机を二つ突き合わせ、二人の女子生徒が向かい合わせに座っている。その右側に座った生徒は、今にも泣き出さんばかりの表情で向かいに座る生徒を見つめていた。 「大事な物なんです。失くして以来、母はすっかり落ち込んでしまって――」 「んー、いま探してるからちょっと待ってね」  左の椅子に座った生徒はのんびりとした口調で言うと、セミロングの髪を揺らしながら鈴音の方へ顔を向けた。 「ねえ、鈴音。お茶が飲みたいなぁ」  緊張感のない笑みに頷いて、鈴音は黒板の隣に設置された古ぼけた棚からティーセットを取り出した。 「ミルクティー? ストレート?」  カップを用意しながら尋ねると、ミルクティーという答えが一つだけ返ってきた。鈴音は振り返って心配顔の生徒に視線を向ける。 「飲みますか」  しかし彼女は首を左右に振った。 「そうですか」  言いながら鈴音はティーバッグを二つのカップに入れた。ポットからお湯を注いで一分待ち、ミルクと砂糖を一杯ずつ入れてかき混ぜる。そしてカップの一つを左の席に座る彼女の前に置くと、もう一つを手に持ったまま窓の近くに移動した。外から吹き込んだ風が白い湯気を掻き消していく。 「あー、やっぱり紅茶はミルクティーだよねえ」  両手でカップを持ったセミロングの彼女はホッと一息つく。 「……あの、本当に探してくれてますか?」 「え? あ、うん。探してるよ。あとちょっとかなぁ」  依頼人の生徒は眉を寄せてこちらに顔を向けた。鈴音は視線を逸らして窓際に置いた椅子に腰を下ろす。
/166ページ

最初のコメントを投稿しよう!

21人が本棚に入れています
本棚に追加