きづき

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「だいぶ体がお冷えのようだ。風邪をひかれる前に、風呂に入ったほうがいい。自己紹介は、食事の席でお伺いしましょう」  館の主は机の上にある銀色の鈴をチリチリと鳴らす。 「お呼びでしょうか?」 「お客人を浴場に案内してくれ」 「…かしこまりました。どうぞ」  メイドは表情を変えることなく男の前に立つ。 「では後ほど…」  館の主は、薄い微笑を浮かべた。 「広いな~」  男は、案内された浴場の広さ、豪華さに感心していた。 「20分前に比べたら天国と地獄の差だよな…これであのメイドさんに背中を流してもらえれば最高なんだがな~」  げへげへと卑下た笑い声をあげならが、男は風呂桶に湯を汲んで勢いよく被る。結構熱いが、我慢できないほどではない。 「ふ、うあ~」  男はゆっくりと湯船に身を沈めると同時に唸る。頭の芯が痺れるような快感が雨で冷えていた全身を駆け巡る。  つくづく自分が日本人であることを痛感する。 「旅ゆけぇばぁ~てか?」  男は頭に乗っけていたタオルに手をのばす。  ボチャン  何かこう、大きくて重いものが湯船に落ちる音がする。 「なんだ?」  男はつぶっていた目を開けて音のしたほうを見る。 「は、え?」  男は自分の目を疑う。そこには、真中の三本の指先でつながった右手のひらきが湯船に漂っていた。
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