2人が本棚に入れています
本棚に追加
「だいぶ体がお冷えのようだ。風邪をひかれる前に、風呂に入ったほうがいい。自己紹介は、食事の席でお伺いしましょう」
館の主は机の上にある銀色の鈴をチリチリと鳴らす。
「お呼びでしょうか?」
「お客人を浴場に案内してくれ」
「…かしこまりました。どうぞ」
メイドは表情を変えることなく男の前に立つ。
「では後ほど…」
館の主は、薄い微笑を浮かべた。
「広いな~」
男は、案内された浴場の広さ、豪華さに感心していた。
「20分前に比べたら天国と地獄の差だよな…これであのメイドさんに背中を流してもらえれば最高なんだがな~」
げへげへと卑下た笑い声をあげならが、男は風呂桶に湯を汲んで勢いよく被る。結構熱いが、我慢できないほどではない。
「ふ、うあ~」
男はゆっくりと湯船に身を沈めると同時に唸る。頭の芯が痺れるような快感が雨で冷えていた全身を駆け巡る。
つくづく自分が日本人であることを痛感する。
「旅ゆけぇばぁ~てか?」
男は頭に乗っけていたタオルに手をのばす。
ボチャン
何かこう、大きくて重いものが湯船に落ちる音がする。
「なんだ?」
男はつぶっていた目を開けて音のしたほうを見る。
「は、え?」
男は自分の目を疑う。そこには、真中の三本の指先でつながった右手のひらきが湯船に漂っていた。
最初のコメントを投稿しよう!