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「雨か…」
しんと静まりかえった暗闇のなか、窓の方から微かに聞こえてくる音が雨が降りはじめたことを告げている。
カチンという金属音と共に暗闇に炎が揺らぐ。
深い深呼吸。
煙草特有の光が漆黒の闇に映える。
「こんな辺鄙な所にようこそ。私、当九龍館の百二十代目の当主九龍幻と申します」
この館の当主を名のる銀色の長い髪の頬の痩せこけた青年が、晩餐の席上で言った言葉が今更のように思い出される。
「辺鄙なところ…か。住んでる本人が言っていれば世話無いが、あんな綺麗なメイドとと一緒なら気にならないよな」
この屋敷を訪れた時に出迎えてくれたサイドアップに纏められた黒髪、切れ長の目、艶っぽく厚い唇、白磁のような肌をもつクラッシックなメイド服に身を包んだとても美しい女性の微笑を思い出す。
「ということは頬がこけているのはもしかして夜のナニのせいか?」
不粋な妄想が浮かんできて下品な笑い声が自然に出てくる。
「しかし、よくこんな所に住んでいられるな。そしてやってくる俺も…」
と口に出したところで頭の隅に引っ掛かっていたあるシコリが氷解した。
俺はどうやってここに来た?なぜここにいる?
「か、金縛り?こ、これは…」
シコリが氷解した途端、全身が押さえつけられたように動かなくなる。
「くそ!動け」
呪縛から逃れるべく、必死の思いで指先に力を入れる。
だが、なぜ金縛りに遭うんだ?ベットに腰掛けている状態で金縛りに遭うなんて聞いたことないぞ!
そんなことを思いつつ、指先に力を込めた途端、不意に手のすべての爪に鋭い痛みが走り、不気味に軋む音が響いてくる。
「な、なんだ?」
必死の思いで手を、指を見る。
「つ、爪が」
目の前で起きている現象に、我が目を疑った。
爪が、自分の手の爪が、不気味に軋みながら剥がれる。
爪が無くなると皮膚が、爪のあったところを起点に、火で炙られたスルメのようにくるくる丸まりながら剥けていく。
皮膚が剥がれるたびに筋肉が露出していくが、痛みというものがまったくない。
腕の皮膚のあちこちが断裂し、包まった皮膚が闇に弾ける。
目の前を髪の毛が房となって落ちていったことで、皮膚の剥げ落ちが全身に広がったことを意味していた。
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