カメレオンの恋愛手法

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 もちろん、彼に頭を撫でられるのは、人生で初めてのことだった。 「怒らないのね」  不思議になって尋ねると、彼はなんでもないことのように言う。 「怒るわけない」 「あなたはたくさん努力してきたんでしょう。その努力の結晶を、三十年の結晶を、私が台無しにするかもしれないのに? ご両親泣くんじゃないの」  自分でも、こんなに厳しいことが人に言えたんだなあと感心する。愛というのはすごいし、裏切られたときの痛みによる逆上の力もすごい。  私は自分を守るために、いわば防御を高めるために、彼を攻撃している。やっていることはただ彼を傷つける、無駄な殺生なのだけれど、本当にやりたいことは私自身を守ること。出来るだけこの突き槍を研いで、先を尖らせあなたに向けることで、私は安全なドームのなかで守られた気持ちになれる。  彼は、うんうんと私の言葉に頷いて見せてから、にっこりと微笑んだ。ほんとうに不可解だ。 「報われたよ、君と結婚できた」   *  この、どうしようもない、辛さも、多分報われる日が来る。  もしくは風化して、そんなことあったっけ? ってとぼけられるようになる。懐かしい思い出に、なる。  今はどんどん過去になるということ。時間は過ぎるということ。  彼氏がいつ結婚を申し出てくれるだろう、と焦っていた時にはなかった感情だ。時間がすぐ過ぎ去って欲しい。私自身は老けてくかもしれないけれど、きっと心は時間が癒してくれる。  だから、来月結婚する。
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