カメレオンの恋愛手法

3/4
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ
 どうしてかしら。どうしてこの人は、二十代後半の遊び盛りを素通りした上で、三十代前半の今、年収的にも選び放題の選択肢の中、私一人にこだわり続けるのだろう。  もしかしたら課題解決能力が低いのかもしれない。会社では、同じアプローチしかしないやつだと馬鹿にされているのかも。  そんなことを考えたところで、やっぱり元カレのことが好きだったんだと分かる。  彼はしっかりしていた。駄目なこと、失敗したこと、見劣りすることがあれば、すぐに切り替えて新しいやり方を試す。  仕事ならいいけど、恋愛でそれをやられたらたまらないわけで、だから今こんなひどい状況になっているわけだけど。  ふと気になって、いろんな質問を、来月結婚する彼にする。  質問というのは、投げかけるだけでも効力を発揮するものがいくつかある。  そんなこと聞くの? ひどい! って思われるようなあけすけな問いだったり、逆に、聞いてしまうことで何かを強く主張することになる、裏側に濃い含みを持つ問いだったり。  彼はどの質問にも鈍感に正直に答えてみせた。  私は半ば彼を傷つけるために、たくさんの質問をする。  モテなかったの。年収はいくら。貯金はあるの。車の車種。親との仲。長男かどうか。小さい頃の教育方針。会社での立ち位置。初めて彼女のできた年齢。部下の人数。  やがて嫌がらせの質問が尽きた頃、私の元カレの話でもして無遠慮に傷つけようかなあなんて考えてた時に、彼はそっとわたしの頭を撫でた。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!