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これはフィクションではなく、客観的な事実のみを列挙しています。具体的な地名や人物については名前を伏せさせていただきます。
あるところに、渓谷を渡るための朱橋と呼ばれる大きな橋がありました。
国道から分岐して町と町をつなぐ大事なライフラインで、朝から晩まで渋滞が起きるほど車通りが多い橋です。
ですがそこは、役所や県が目を光らせるほどに飛び降りが多い全国有数の自殺スポットで、監視カメラの設置や警察の巡回はもちろん、少しでも雰囲気を良くしようと血を連想させる朱をやめ定期的に緑や黄色に塗り直し、はてはお地蔵様まで作る始末。
それでも自殺は減りません。
ある時、絶対に飛び降りができないよう工夫した柵を設置したら、今度は橋の麓で練炭自殺等が多発。つど報道されることから地元住民は「ああ、またか」と感じるほど。
しかし、あるとき大規模な土砂崩れが発生し、橋は巻き込まれ跡形もなく消え去りました。深夜だったことから巻き込まれた被害者は大学生1名のみ。
重機を渓谷に下ろすことができず捜索活動は難航。数ヶ月後に橋があった場所から数百メートル下流で行方不明者が乗った車が発見され、これまた長い準備期間を経てようやく家へ戻った、というのが最近の話。
不謹慎ではありますが、自殺志願者でなかったにせよ彼が最後の犠牲者となり、現実に存在した自殺スポットはこの世から消え去り、あとは一部のオカルト好きの間に口伝でのみ残る存在になるのだろうな。
と思っていました。
崩落現場は未だ危険であることから数キロ前から柵で封鎖されていますが、自転車で山を登ってきた高校生が柵を越え、わずかに残った1メートルたらずの橋から渓谷へ投身自殺。つい数週間前のことです。
大学受験が辛かった、と自宅に残された遺書に書かれていたそうです。
なぜあの橋があそこまで死を呼び寄せるのかわかっていません。橋自体はとても難しい場所に架けられているため近年作られたものですし、日常的に多い通行車両が事故を起こす、なんて話も聞きません。
ただ自殺したい人間を吸い寄せる場所、終わったと思った連鎖、まだまだ続きそうです。
そしてこれを書きながら見ていたニュースでまた一人。借金苦で悩んでいた元会社社長だそうです。
(終)
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