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いざ、雨に打たれる時になって、渉は躊躇していた。
鞄にしまったとは言え、中には大切な課題、楽譜が入っている。
激しく叩くような雨は、渉の覚悟をあっさりと崩してしまった。
「…もう少し、ここにいよう」
渉は、目を閉じ雨音に耳を傾けた。
雨音の合間に、その息遣いが聞こえてくるようだった。
「…抱いてよ…」
渉は、呟いた。
聞こえるはずもない呟きを、雨音に囁いた。
「抱いてよ…今のうちに」
雷が、鳴っているうちに。
雷鳴が、声を隠してくれる今のうちに。
瞼を透かして、雷光が見える。
「好きなんだ」
雨も。
あんたも。
「…知ってるよ」
雷鳴と同時に、声が響いた。
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