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大使の娘
「外国の大使館とは仲良くしておいたほうがいいわよ。あなたの国が危なくなったとき、どこにも逃げ場がないと困るでしょ?」
アスタナはカザルなまりの言葉でそう言った。ところどころ発音や抑揚がアレだけど、まあ許せる点数の日本語だ。
「どこかに亡命したいと思ったことなんてないよ」
いきなり意想外のことを言われ、なんと答えたらよいものか。黙ってるのも何なので、ぶっきらぼうに応じた。この国を命をかけて守る気概はないが、逃げ出したいとも思わない。
「カザルスタンはどうかしら? 国王は世界最高の待遇で臣民を報いてくれるけど」
彼女の国だ。言うことは嘘じゃない。
税金はなし。住宅費は無料。光熱費も無料。医療も大学教育も無料。おまけに、無職でも国民すべてに十分な額の生活費が国から給付されるという。でも実際に受給する者は少ない。大多数のカザル人はそんな境遇に甘んじたりせず、国から仕事を世話してもらう。ずっと実入りがいいからだ。高級車やヨットを買える程度には。
なぜ、そんなに豊かな国なのか?
化石燃料だ。
原油や天然ガス、王家の所領が生み出すエネルギー資源をメジャーに採掘させ、それで得られる莫大な収益。
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