大使の娘

2/43
前へ
/43ページ
次へ
 これは実質的に、土地の所有者たるハイファット王家のものなのだが、今の時代、王の一族だけですべてを独占してすまし込むわけにもいかない。そこでカザルスタンの国王は、臣民らにごく一部を分け前としてあずからせることで国体をなすことを成功させたのだ。  なに、総人口は20万人程度。これが200万人、2000万人、2億人だったら、さしものギネス級大富豪もたまったものではなく、もっと違った成り行きになっただろうが。  でも、移り住む気はない。なぜかって? ほら、周囲が外人ばっかりだろ。  それにまあ、日本といろいろ違って窮屈そうだ。たとえば、人権問題。 「せっかくのお招きだけど。ひとつ、気になることが。カザルスタンに自由はあるの? 言いたいことを言える?」  カザルスタンは王族が支配する独裁国家というわけで、けっこう評判が悪い。国王の悪口言ったり酔っ払ったりして国家警察にしょっぴかれるのは日常のことらしい。 「もちろんよ。コーランとわたしのお祖父さまの言葉にさえ背かなければ」  アスタナは正直だ。  彼女は国王の孫娘。その父親が国王の嫡子。今はカザルスタン大使としてアスタナとともに東京にいる。いずれ帰国すれば外務大臣に昇格するという。ゆくゆくは王位を継承するかもしれない。 「言葉の問題もある。カザル語なんてできないし」 「英語が公用語のひとつなの。国王は国民すべてに高等教育を無料で授けてくれるから、あなたくらいの年の人なら誰でも英語がしゃべれるわ」     
/43ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加