1人が本棚に入れています
本棚に追加
「それじゃ安心だ」
言ったあとで、自分は英語もろくに出来なかったことに気が付いた。アスタナとやり取りできるのも、彼女のほうで日本語を話してくれてるからだ。東京大使の娘とはいえ、まだ15歳。すごい学習能力じゃないか。
車が大使館に着いた。
アスタナの住む大使公邸と一体になった建物。門柱にはカザル語、英語、日本語で「駐日カザルスタン大使館」を意味する表札が掲げられてる。
アスタナは運転手に命じて門の前で停車させると、ぼくと一緒に車から降りた。
彼女はインターナショナル・スクールの学生服。ぼくのほうは警備会社の制服に身を包んでいる。はたからは良家の令嬢が警護の者に付き添われて帰宅した場面に見えようが、実際そうなのだ。
しかしここで警護の役目は、館内での警備を受けもつカザルスタン側の警護官と交替する。自分の役目はあくまで大使の娘の外出時の身辺警護、大使館の中には入れない。
いや建前上、学校の中にも入れない。仕事はいつも、門の付近での待機。表向きではそうなっている。
しかし、わからない。自分は取り柄のない人間だ。
彼女は王族の一員、有望な政府高官の娘なのに、なぜぼくなんかにこうも親密にしてくれるんだろう?
最初のコメントを投稿しよう!