出会い

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 校舎まで山を切り開いて作られた緩く長い上り坂の桜並木の花弁が入学生を歓迎している。 敷地の奥の公会堂にて、今まさに粛々と執り行われる入学式。 1人、沖田孔明は希望に満ちた眼差しで壇上を微笑みながら見つめる。 目が軽く閉じられると心の中でやっとここまで来たと自分を労わる。 入学式が終わり、その後各組の教室に案内され担任の自己紹介やオリエンテーションを受ける。 一通りおわり、その帰り道に桜に語り掛けた。 「よし!ここで僕は生まれ変わるんだ!高校デビューだ!」 実は中学ギャップに乗り遅れてしまい、いじめられっ子になった孔明だが 同じ中学からの出身者は誰もいないあえて選んだ全寮制男子私立校。 「人気者の真似をすればいい、明るく元気に活発で笑顔眩しく!過去を知るものは誰もいない!よっしゃぁ!」 孔明は入学の余韻に浸っていた 入学式だけでまだ寮には入れない。 帰り道、学園の麓にはバス停がある。 最寄り駅に向かうバス停はごった返していた。 反対側の少し乗り換えが面倒な方面は空いている。 面倒くさいと思いながらも、ホームタウンになるのだ。好奇心が勝って乗り換えが面倒な方へと信号を待つ。 横断歩道の反対側には若い夫婦が子連れで話していた ほんの一瞬、子どもの手を掴んでいた手から子どもが離れた。 赤い横断歩道に走る 「危ないっ!」 孔明は叫ぶとそのまま本能に従って少女の元へ急いだ パッパー 激しいクラクション 「(間に合わない)」 孔明は少女を抱えると来る衝撃に備えた ブレーキ音がする 「何やってる!子どもを突飛ばせ!」 反射的に僕は子どもを突飛ばした しかし僕自体は動けなかった。座ったままだ 「チッ」 何かに包み込まれると同時に轢かれ強い痛みを感じ意識を手放した。 とある彼が僕を庇い、2人とも数メートル吹っ飛ばされたらしい。 一瞬の出来事。 僕2人は同じ病院、病室に運ばれた 「孔明!孔明!」 揺さぶられる感覚で目を覚ました俺 「良かった・・・意識を取り戻したのね!!」 「母さん・・・痛っ」 「本当に良かったわ。安静にしていてね」 「母さん、僕・・・」 「隣のベットの武田信玄くんよ。彼が助けてくれたの。彼がいなかったらどうなっていた事か・・・」 母は涙を浮かべる 信玄は目覚めていたらしく、こちらを見つめると右手を出してきた 孔明もそれに応える。 ガッチリとした手、男の手だった。 平凡な自分にはない力強さだった。 2人は共に称え合い、にっこりと笑みがこぼれる。 母が信玄のもとに行くと何か紙に書いている。頷く信玄。 「孔明、実は・・・信玄君は後遺症で聴力と声を失ってしまったの。頭を強く打ちすぎたのよ」 孔明はベッドから抜け出し、信玄の正面に立つ。そして紙とペンで意思を伝える 『本当なのか?』 肯定の頷き
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