第十八章 帰るべき場所(前編)

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四、かなたの闘い 「先鋒、前へ」  午後二時。  団体での一礼が終わった後、眼鏡をかけたグレーのスーツ姿の真面目そうな中年の顧問の声がかかった。  ついに来るべき時が来た。 「かなた、大丈夫だ。お前は正義の侍なんだから」 「はい」  頷くかなた。  剣道部側からは剣道衣に防具を着けた早紀子が出て来た。  早紀子は止まらずにまっすぐこっちに向かって来た。 「やめるなら今のうちよ」  早紀子の声に正座していたかなたが立ち上がった。 「私、負けませんから」 「な、なによ――」 「ふたりとも早く開始線へ」  早紀子はまだ何か言いたそうだったが、主審の声に中央に戻って行った。  礼をした後、お互い中央に来て、竹刀を構える。  そして立ち会いの前に剣士が一度中腰にしゃがむ蹲踞(そんきょ)と言う姿勢を取る。  会場内の緊張感が一気に高まった時……。 「始めっ!」  剣道部顧問によって試合開始の声がかけられた。  審判は主審が剣道部顧問の中山。  普段は理科の先生をしていて剣道経験は無いようだ。  名ばかりの顧問だけど、勉強熱心でルールブックも暗記しているって話。  
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