第十八章 帰るべき場所(前編)

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 一度、体ごとかなたにぶつけると間合いを取り直して、面を打ちに入って来た!  かなたの面に向かって早紀子の竹刀が打ち下ろされる!  しかし、かなたは打ち下ろされた竹刀を横に流すように体を左にずらす。  よし、かなた、今だ! 天に代わって悪を……打て! 「メーンッ!」 「――!?」 《パーンッ!》 「……」  一瞬、静まりかえる場内。 「め、面あり」  主審の声と共に赤旗が三本挙がっている。 『ワァーッ!』  会場から一斉に歓声が上がる。 「ホッホッホッ。一の太刀を盗むとは、流石はワシの弟子じゃ」  俺の後ろで虎蔵じいさんが満足そうに頷いていた。  次はかなたと部長の結城との闘いだ。  今度は向こうも警戒してかなたにちゃんと打ち込む隙を与えない。  かなたも結城部長のソツのない動きにまともに打ち込めず、ついに時間切れ引き分けとなってしまった。 「すみません。引き分けてしまって」 「何言ってるんだよ。カッコ良かったぜ」 「そうだよ。自信持てよ正義の侍」  帰って来るなり謝るかなたを俺達みんな、拍手で迎えた。 「はい。うっ、うっ……」  面を取るとかなたの顔は汗と涙で濡れていた。 「一之瀬さん」  面を取った結城部長が、いつのまにか俺達の陣地に来ていた。 「部長……」 「あなた、ホントは強かったのね。私と南条さんとの順番が逆だったら一本取られていたのは私のほうだったわ」 「そんな。さっきのはたまたま早紀子先輩に動きを合わせることが出来ただけで……」 「また、いつでも部活に来てよね。待ってるから」 「はい」  結城部長は振り返ると、セミロングの髪をなびかせて剣道部の陣地に戻って行った。  そして、かなたに負けて悔しそうに泣いていた早紀子をそっと抱きしめた……。
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