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六、ヘタレの意地
「俺の番だ」
みんな一斉にハジメを見る。
「行けるか?」
「ああ、俺はお前らよりは少しは竹刀慣れしてる。簡単にはやられはしない」
「オイ、ヘタレのクセに言ってくれるじゃんかよ」
楯岡が、こっちに来たかと思うと立ったままハジメを見下ろしていた。
「ハジメ……」
俺は心配になり声を掛けた。
「俺は幼稚な挑発には乗らない」
「んだと! テメェ――」
「選手は早く前へ」
中山の声が飛ぶ。
「チッ、まあヘタレなりにせいぜい楽しませてくれよ」
捨て台詞を残して楯岡は中央の開始線まで戻って行った。
「長尾」
合氣道衣に防具を着けながらハジメが俺を呼んだ。
「俺は多分、楯岡には敵(かな)わない」
「な、何言うんだよ。そんなことやってみなけりゃ分からないだろ」
「俺は散々やってみたんだ」
「ハジメ……」
「悔しいけどあいつらの強さは半端じゃねぇ」
ハジメはまっすぐに敵陣を見つめている。
「剣道三倍段て言葉知ってるか?」
「三倍?」
「ああ、剣道やってるヤツは竹刀を持つと初段なら他の武道の三段の強さになるって言われている」
「マ、マジかよ」
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