第十八章 帰るべき場所(前編)

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 いや、動けないのか? 「メーンッ!」  楯岡の飛び込みながらの面打ちが決まった!  かと思ったが審判は誰も旗を挙げない。 「打ち込みが浅いんです」  かなたが横で説明してくれた。 「剣道では『物打ち』って言う剣先から中結いって呼ばれてる皮の輪の間の部分がしっかりと当たってないと一本にならないんです」 「そうなんだ」 「はい、後『残心』って言って打った後の動きも大事なんです」 「そっか、他の武道だと試合があるから一本取るのも難しいんだな」 「そこが曲者(くせもの)でな」 「――!?」  虎蔵じいさんが音も無く横に来ていた。 「曲者?」 「そうじゃ、一本を大事にするのはいいんじゃ。だがそこに拘(こだわ)り過ぎると武道よりもスポ ーツになってしまうのじゃ。別にスポーツが悪いとは言わんがの」 「はあ」  そんなもんなんだろうか。  俺にはまだ武道とスポーツの違いなんて良く分からないけど。  まあとにかく、そのルールのおかげでハジメは一本取られずに済んだってわけだ。 「ヤァーッ!」  更に楯岡の掛け声が響く。  そうだ。試合はまだ終わっていなかったんだ。 「ドーウッ!」 「抜き胴!」  かなたが叫ぶ。 《バシィッ!》  
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