第十八章 帰るべき場所(前編)

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「ハジメッ! もういい! スピードに目は慣れた。後は俺達に任せろ!」  俺の言葉を聞いたか聞かないかの瞬間、ハジメの体は一瞬フラッと崩れた。 「メーンッ!」  その瞬間を逃さず今度こそ楯岡の面打ちが決まった!  俺にも分かる、完全に有効打突だ。  白旗が三本上がる。 「面あり!」  主審の声が道場に響き渡った……。 「ハァ、ハァ、ハァ……」  息を切らせて帰って来るハジメ。  ハジメが面を取ると、顔中汗だくになっていた。  被った手ぬぐいもびしょ濡れで、頭にペッタリ張り付いている。 「ハジメ……」 「後は任せたぞ」 「あ、ああ」  あんな壮絶な試合見せられて、俺は正直ちょっとビビり始めていた。 「大丈夫だ。ヘタレの俺に出来たんだ。稽古量はお前が一番多いんだから自信を持て」 「お前はヘタレなんかじゃないよ」 「……ありがとう」 「長尾、俺の仇(かたき)も取ってくれよ」 「お前は早くやられすぎだっつーの」  亮がマサルを突ついた。 「しょうがないだろ。まさか、あんな打ち方してくるなんて思わなかったんだから」  マサルはムッとしている。 「長尾先輩がんばって下さい」 「妙心館、前へ」  主審が催促している。 「あ、早く防具を付けないと」  そう言って防具に手を伸ばした時――。 「直人や」  虎蔵じいさんの声。  なんだろう?  少し離れた所で正座していた虎蔵じいさんが俺を手招きした。
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