第十八章 帰るべき場所(前編)

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二、痛む心  俺達は出発のため、妙心館の門前に来ていた。 「よし、それじゃあ行くぞ!」  亮がみんなに声を掛ける。 「ちょっと待って」 「なんだよ長尾」 「俺、ちょっと道場に忘れものしちゃって。悪いけど先に行ってて」 「そっか、早く来いよな」 「うん」  俺は亮達と別れると、再び上杉家の門を潜(くぐ)った。  門を潜ると俺は道場に向かう。  中を覗く。  いないな。  忘れ物と言っても『物』じゃあない。  さっきの愛氣の態度が気になって確かめておきたかったんだ。  まだ門から出て来て無かったから、道場じゃなかったら母屋にいるはずだ。  俺は母屋に入ると、まっすぐに愛氣の部屋に向かった。  俺は愛氣の部屋の前に来て、目の前のドアを見つめる。  中にいるんだろうか。 《トントントン》  ノックをする俺。 「……」  特に反応が無い。  ここじゃないのか?  振り返って行こうとした時。 「誰? おじいちゃん?」 「俺だよ。直人」 「……」  それきり中からは愛氣の声が聞こえてこない。  思い切ってドアノブに手を掛けた時。 《ガチャ》  ドアが開き中から愛氣が出てきた。 「良かった。まだいたんだ」
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