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「携帯取りに来ただけ。もうすぐ宏治郎おじさんが迎えに来るから」
「そっか。あのさ」
「何? 用があるなら早く言ってくれる?」
「何、ツンツンしてんだよ。久しぶりに会ったって言うのに」
《ムッ!》
明らかに不機嫌な表情をする愛氣。
「あたしに言わせるの? 昼間っから公園で、あの一年生の女の子と抱き合ってたくせに」
ゲッ! 昨日のかなたと居たところを見られてたのか。
そう言えば春海公園は春海総合病院のすぐ近く。
入院してる患者さんも散歩に来たりしてるんだ。
まさか愛氣に見られてたなんて……。
「あ、あれは抱き合ってたとかじゃなくて――」
「言い訳するの? どう見たって抱き合ってたじゃない!」
「なんだよ。そっちこそ、コソコソ見たりなんかしてさ。一言掛けてくれればいいのに」
「へぇ~今度は逆ギレするんだ」
「な、なんだよ、その言いかた」
《ブーン》
外で車が止まる音が聞こえた。
きっと宏治郎さんが愛氣を迎えに来たんだ。
「あたし、もう行くから」
俺の横を通り過ぎようとする愛氣。
「ちょっと待てよ。まだ話は――」
《ドンッ!》
愛氣はすれ違いざま俺に肩がぶつかるのもかまわずに通り過ぎた。
「待てって!」
俺は後ろから愛氣の右腕を掴んだ。
「――!?」
《ズッドーンッ!》
一瞬、俺は何が起こったか分からないままに廊下に叩きつけられていた。
右手首がジーンとしている。
小手返しをされたのか……。
いってぇ~。
右手首を押さえながらなんとか立ち上がる俺。
「ホントッ! 直人って人の気持ち分かってないんだからっ!」
「愛氣こそ、俺の気持ちなんて分かってないじゃんか!」
「もぉ、知らないっ!」
「俺だって知らないよ!」
「……」
「……」
愛氣はキッと振り返るとそのまま行ってしまった。
愛氣が振り返る寸前、その目に涙がいっぱいに溜まっているように見えた。
だけど、俺だって、俺だって……。
チキショー! 泣きたいのは俺のほうだっつーの!
俺は小手返しをされた手首の痛みよりも、愛氣とわかり合えなかったことのほうに何倍もの痛みを感じていた。
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